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『愛と怒りの行動経済学 賢い人は感情で決める』

原書は『FEELING SMART Why Our Emotions Are More Rational Than We Think』。著者のエヤル・ ヴィンターさんはレスター大学とヘブライ大学合理性研究センターの教授。

本書は行動経済学、ゲーム理論、進化論をベースに23のエッセイをまとめたもの。一般の読者に平易に書かれている。

感情的というと通常ネガティブな文脈で語られる。
本書では感情が逆にプラスの結果になるケースを上げている。

ある実験でふたりの人に100ドルずつ与えられる。つづいて「独占」か「寛大」のどちらかを選ぶように指示される。片方が独占、もう片方が寛大を選んだ場合、寛大を選んだ方は独占を選んだ方に100ドル全てを渡さねばいけない。

ふたりとも独占を選んだ場合は、ふたりとも実験者に50ドルを返さねばならない。そしてふたりとも寛大を選んだ場合、どちらも実験者から追加で50ドルをもらえ150ドル貰えることになる。

ふたりはどちらを選ぶかの相談はできないとする。

ふたりが合理的で自分の利益を最大にしようとする人間ならば、200ドルを稼げる独占を選ぶだろう。ところがこのゲームに感情を加えてみる。

相手が寛大を選んだのに、自分が独占を選んだ場合、自分の貪欲さをやましく思う。このやましさの価値は100ドルのマイナスだとする。逆に相手が独占を選び、自分が寛大を選んだ場合、あなたは屈辱感と怒りを覚え、これも100ドルのマイナスだとする。

ふたりともこのような感情を持ち、同じ価値を持つとする。これで効用計算をすると、自分だけが独占を選んだ場合の報酬は100ドルに下がり、ふたりとも寛大を選ぶようになる。

やましさや怒りような負の感情でも良い結果になるというのに驚く。

信頼ゲームという実験も興味深い。

信頼ゲームではふたりのプレイヤーのうち提案者側に100ドルを与えられる。このお金は独占してもいいし、もう一人のプレイヤーである受領者に一部を分け与えても良い。提案者が受領者にお金を分けた場合、実験者はその2倍の額の金額を受領者に渡す。さらに受領者は持っているお金のいくらかを提案者に返すことができるという。いくら返すかは受領者の自由である

これは提案者が受領者への信頼が高いほど、受領者に渡すお金の額は大きくなる。
信頼ゲームで人々が他人に示す信頼の度合いを調べることができる。

著者はヨーロッパ大学院の教授時代に学校に集まったヨーロッパ各地の学生を対象にこの実験を行なっている。

結果はおそるべきで北ヨーロッパの学生は信頼され、南ヨーロッパの学生は信頼が低いという結果になった。信頼ゲームを6回繰り返すことで、差別が少なくなると予想していたが、結果は逆だった。回数が多くなるほど差別が強まったのだ。

これは不信を示されたプレイヤーは、2回目のゲームで自分も相手に不信を示した。不信の連鎖が起こり、差別が強まったのだ。この実験の発表先を探すのは挑発的な内容とみなされ簡単ではなかったという。

各章が名著『ファスト&スロー』のように短く読み切れるように配慮されている。前半はゲーム理論、後半は進化論に分かれている。集合的感情、ハンディキャップ理論、マーケット・シグナリングなど興味深いトピックが登場する。

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